お侍様 小劇場

   “今日から師走” (お侍 番外編 99)
 


定時のニュース番組なぞで、
事件や流行、スポーツイベントに著名人の名言(迷言?)など、
この1年のあれこれを振り返るようなコーナー、
増えて来たなぁとは思っていたが、

 「………。」
 「あ、すみませんね。」

久蔵殿の方が、先に気がつきましたかと、
恐縮したようなお声を出した七郎次だったのへ。

 「?」

それは落ち着く自宅のリビングの窓辺、
朝の陽が降りそそぐソファーにて。
肩や背中へすべらかした濃色の豊かな髪を温めながら、
のんびりと眸を通していた朝刊の紙面から顔を上げ、
朝っぱらから何ごとだろかと、
ひょいと首を伸ばした勘兵衛の視線の先では。
片や、裾にクセの出る金の髪、ふわんと軽やかにふくらませ、
まだまだどこかほっそりとした痩躯だが、
そんな中にも育ち盛りの伸びやかさを見せている次男坊。
通っている高校の、大人しめの制服をまとった久蔵が、
上質紙だろう、大きめの白い紙をくるんと筒に丸めたの、
キッチンからお顔を出しかけていた七郎次へと手渡していたところであり。
自分の部屋のをはがしたものか、
どうやら 11月分のカレンダーだったらしくって。

 「年末には、収納庫から1年振りに出すものや、
  その後すぐにも片付けるものが出ますからね。」

新聞で包むのではちょっと差し障りがありそうだが、
さりとて、
半紙やキッチンペーパーのように、
柔らかいだけなものでは不安…と思うもののため。
裏の白い、こういうしっかりした紙も要るんですよねと。
覚えておいて捨てないでいてくれたことへ、
気を利かせて下さってありがとうと、
青玻璃の目許を細め、にっこりと微笑っているおっ母様へ、

 「〜〜〜〜。//////」

いえいえ、このくらいでそんな…あのその と。
ありがとうの一言へ、思わぬご褒美もらったかのように。
玲瓏に整っていたお澄まし顔、
たちまち含羞みに染め上げての、
口許を うにむにたわめる久蔵なのも相変わらず。
それが何とも微笑ましくて、
勘兵衛の精悍な面差しも、思わずのこと甘く緩んでしまったほど。

 “おやおや。”

会社や学校へと出掛ける家人らへの、
朝食の準備や少し冷え込む外出への支度をお手伝いし。
それらの合間に洗濯機を回して…と、
朝のお仕事も少なくはなかろうに。
うなじに束ねたつややかな金の髪もうるわしく、
すっきりとした笑顔にも一点の曇りなしという、
それは清かな見目のまま。
焼き魚やらホイル焼きやらというメインに、青菜の煮付けとお新香と、
今時だったら大根と薄あげのおみそ汁というよな献立を、
そりゃあ手際よく温め揃え、
来週からの期末考査を前に、まだまだきっちりと授業のある次男坊や、
今日はオフィスに籠もっての書類整理があるという勘兵衛のため、
だし巻玉子と焼き鮭に、湯がいたブロッコリーにはオーロラソース。
中身がそれぞれ違うおむすび5つ…というお弁当へも手を尽くし、と。
絵に描いたような良妻賢母ぶりを発揮中のおっ母様だったのへ、

 「そんな支度も要る頃合いとはの。
  本当に早いものだ。」

こちら様こそ、
今日が何日かなんてこと、
お仕事柄しっかと把握しておいでの御主様が、
立ち上がりがてらにそんなお声をかけて来て。

 「久蔵の休みはいつからだ?」

訊かれて“えっとぉ”と宙を仰いでから、

 「試験が10日まで。」

後は終業式まで試験休みだという部分をはしょった、
いかにも端的なお答えなのへ“さようか”と苦笑をし。

 「では、その10日にでも、
  忙しゅうなる前の景気づけ、何処かで食事としよう。」

どうせ休みの間は、
ずっと七郎次の手伝いに明け暮れるのだろうと、
あっさり見越しておいでの宗主様のお言葉へ。

 「あ。それはいいですねぇvv」

鋭気を十分に養ってもらって、
明けての冬休みには、一杯頑張ってもらわねばと。
口ではそんな風なことを言いはしたものの。
そんなお言いようをした七郎次だったの指して、

  ―― はてさて、
     どこまで“頼って”くださるものか、と

奇しくも、勘兵衛と久蔵と、
全く同じ感慨を抱いたのは言うまでもなかったり。

 “まま、苦とは思って無さそうだがの。”

歳暮はさすがに、もう手配済みの七郎次だろうが、
少なくはない知己への年賀状を書いたり、
元旦は避けるがその翌日、
島田の宗家で開かれる、新年の顔合わせやご挨拶にと、
駿河へ戻る宗主・勘兵衛と、木曽支家の次代である久蔵の、
身支度の準備や確認や。
そうそう、こちらでの年始回り用のお使いものの準備もあろう。
大掃除やそれで出される新聞や雑誌といった古紙の整理もあるし、
普通一般のお正月の用意への各種買い出しと、
その直前のイベント、
クリスマスの宴の方までも、律義に用意を怠らぬ彼なので。
年に一度しか手をつけぬ故に、
ツケが手ごわい大掃除…という意味での懸念はなくたって、
あれもこれもと 手をつけることは山ほどある身。
しかもしかも、そういう忙しさを、
そりゃあ楽しそうにこなすお人でもあるので、
滅多なことでは人を頼らないから困ったもの。

 “とはいえ。”

そんな彼だと、これまた重々知っている久蔵なだけに、
休みに入って在宅三昧
(?)になったなら、
日課の家事は勿論のこと、買い出しやら庭の手入れまで、
勝手の判るものは全部、フォローするつもりでいようこと間違いなく。

 「さあ、そろそろお食事になさって下さいませ。」

まずはの今日は、学校もありましょう。
勘兵衛様も会社の方、今日は普通出勤ではありませなんだか、と。
後日の予定はさておいてと、
家人らを急がせる呼吸も、嫋やかに優しいまろやかさ。
例年に比べれば、まだ暖かな朝から始まった師走の初日。
過去にも未来へも、
決して小さくはないものをそれぞれに背負う、
そんな三人であるけれど。
今はただただ、
当たり前で平凡な朝を、
大切な家人と共に穏やかに過ごす、
至福の温みにひたっているばかり…。




   〜Fine〜  10.12.01.


  *クリスマスといや、本場アメリカはニューヨークの、
   ロックフェラービル前の巨大なツリーが有名で。
   NASAがサンタクロースの飛行を
   衛星を使って追跡するサイト(NORAD)も、
   相変わらず健在だとか。

   そして日本では、
   歳末大売り出しのみならず、
   近年では早々とバーゲンの季節でもあるそうで。
   それからそれから、
   忘れちゃいけない“福引”だって始まるのが師走vv
   はい。久蔵殿の出番です。
(笑)
   宝くじは…シチさんが止めることと思われますので、
   今年も買うことはないかと。
(大笑)

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